コミュニティ創作コンテンツの拡大と業界への影響について
皆さんは「SCP財団」という共同創作プロジェクトをご存じでしょうか。2008年に開設された英語圏のWebサイトを発祥とし、誰でも作品を投稿・評価できるコミュニティ型の創作活動です。今では各国に支部があり、それぞれの文化や価値観を反映した作品が多数生み出されています。
SCP財団では「キリ番」ごとにコンテストが行われ、最も評価の高い作品が正式に採用されます。逆に評価の低い作品は掲載されないため、競争は非常に厳しいものとなっています。中には現実の人物や実在する科学者がモチーフとして登場するケースもあり、例えば中国支部の作品「SCP-2000-CN」には物理学者エンリコ・フェルミが登場します。こうした実在との接続もコミュニティ創作ならではの特徴です。
このような共同創作以外にも、昨今は「小説家になろう」に代表されるWeb小説投稿サイトが隆盛を極めています。評価を得た作品は書籍化・漫画化され、さらにアニメ化まで展開する例も珍しくありません。かつては企業主導で企画されたオリジナルアニメが多かったのに対し、現在では「Web発の原作ありき」でメディア展開が進むケースが主流となりつつあります。
また、イラストレーターがSNSで自作品を公開し、それがVtuberのアバターや商業作品の挿絵として依頼につながる事例も増えています。インターネットは、従来なら企業に所属しなければ難しかったクリエイティブの場を、誰にでも開放しました。
コンテンツとは少し性質が異なりますが、インターネット上で広がる「ネットミーム」も、現代の大きな文化潮流のひとつです。かつてはテレビや雑誌といったマスメディアが流行を生み出していましたが、今ではSNS発のブームをメディアが後追いで紹介することも少なくありません。
代表的なものとしては「猫ミーム」が挙げられます。かわいらしい猫の写真や動画が改変され、世界中で数えきれないほどの派生ネタが誕生しました。また、日本発の事例ではイラストレーター・しぐれうい氏が唄った「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」がYouTubeで1億再生されました。
しぐれうい氏は元々企業に所属してイラストを描く仕事をしていたのですが現在はフリーのイラストレーター兼Vtuberとして活躍されています。こうしたミームは、コミュニティ参加者が自由に創作・二次創作することでさらなる広がりを見せ、結果的に一種のコンテンツ産業としても成立しています。
今後のコンテンツは大きく二極化すると考えられます。一方には、同人やインディーズゲームといった少人数で作られるアイディア勝負の作品群。もう一方には、大手企業が莫大な資金を投じて制作する高品質・大規模な作品群です。いずれが勝つという話ではなく、ユーザーがそれぞれの魅力を自由に楽しめる時代になったこと自体を歓迎すべきでしょう。
SCP財団やWeb小説、SNSイラストやネットミームといった事例は、「誰もが参加できる創作の場」がいかに大きな力を持つかを示しています。インターネットの拡散力とコミュニティの熱量が掛け合わさることで、今後も数多くの新しい文化が誕生していくに違いありません。
